五十肩のツボ——痛む肩から離れた場所を、なぜ押すのか
肩が痛い。腕が上がらない。気がつくと、痛む肩を反対の手でぎゅっと押さえている。二の腕のほうにまで、ずきっと痛みが走ることもある。
何か自分でできることはないかと、五十肩のツボを調べてみた。肩のまわりに、いくつも名前が出てくる。とりあえず、痛いところを強めに押してみる。その場は少し楽な気もするけれど、夜になるとやっぱり痛い。
押し方が足りないのかな。場所がずれているのかな…。
でも、五十肩のツボで大切なのは、場所より先に「いつ押すか」と「どこを押さないか」です。そして、五十肩によく使うツボの中には、肩からずいぶん離れた場所にあるものもあります。
痛む場所は、押さないほうがいいことがあります
五十肩には時期があると言われています。痛みが強く、夜も目が覚める時期。痛みは少し落ち着くものの、肩が固まって動かない時期。そして、少しずつ動くようになっていく時期です。
痛みの強い時期に、痛む肩や、痛みが走る二の腕を強く押したり揉んだりすると、かえって悪化することがあります。痛みが出ているのは、奥で固まった場所をかばって、表面が悲鳴を上げているところだからです。腫れた足首を揉まないのと同じです。
この時期は、痛む場所には触らない。代わりに、離れた場所から手当てをする。痛みが落ち着いて肩が固まる時期に入ったら、肩のまわりも、温めながらやさしく使っていく。時期によって、手当ての場所が変わるのです。
ご自分の症状がどの時期にあたるのかは、五十肩の症状について書いた記事も参考にしてください。
肩から離れたツボ——すね・腕・脚の付け根
肩の痛みに、なぜ脚や腕のツボなのか。不思議に思われるかもしれません。
東洋医学では、体の中を巡る流れの道筋を「経絡(けいらく)」と呼び、離れた場所どうしがこの道筋でつながっていると考えます。また、歩くときに腕を振るように、肩と股関節は連動して動いています。肩に不調があると、股関節まわりにも張りが出ていることが少なくありません。
痛む場所が肩でも、遠くから整える。森を見て、木を治す考え方です。
- 条口(じょうこう):すねの骨のすぐ外側、膝のお皿のすぐ下と足首の前側のちょうど真ん中あたり。昔から五十肩に使われてきたツボです。押しながら、痛くない範囲で肩をほんの少し前後に動かしてみてください
- 手三里(てさんり):肘を曲げたときにできるしわの外側の端から、手首に向かって指3本分。骨のきわをじんわり押すと、肩や首がゆるみやすくなります
- 脚の付け根の外側:太ももの付け根の外側、骨が出っ張っているあたり。手のひらで円を描くように、張っているところをゆっくりほぐします
どれも、息を吐きながらじんわり押すのが基本です。痛いほど強くは押しません。肩に直接触れないので、痛みの強い時期にも試しやすい場所です。ただし、けがや腫れのある場所は避けてください。
肩のまわりのツボ——固まる時期に、温めながら
痛みが少し落ち着いて、肩が固まって動かない時期に入ったら、肩のまわりのツボも使っていきます。
- 肩髃(けんぐう)・肩髎(けんりょう):腕を横に上げたときに、肩の先にできる二つのくぼみ。前側が肩髃、後ろ側が肩髎です
- 天宗(てんそう):肩甲骨のほぼ真ん中にあるくぼみ。自分では届きにくいので、ご家族に指の腹でやさしく押してもらうのがおすすめです
コツは、筋肉のふくらみを強く揉むことではなく、骨のきわにじんわり触れることです。押して痛みが強くなる、あとから痛みが増すようなら、その日はやめておきましょう。
そして、ツボと同じくらい大切なのが温めることです。五十肩は冷えると悪化しやすく、夜中から明け方にかけて痛みが強くなるのも、肩が冷えて巡りが落ちるためと考えられています。お風呂や蒸しタオル、カイロで外から温める。深い呼吸や、温かい汁物で内から温める。寝るときは、肩を布団の外に出さないようにしてみてください。
ツボは、火の元まで届くとは限りません
ツボ押しは、自分でできる大切な手当てです。ただ、正直にお伝えしておきたいことがあります。
五十肩の方には、胸が丸くなり、肩が前に入り込んだ姿勢の方が多くいらっしゃいます。パソコンに向かう時間が長いと、胸の前は縮こまり、肩甲骨の後ろ側は一日中引き伸ばされたままになります。それが何ヶ月、何年と続くうちに、いちばん負担のかかる肩の付け根の奥が固まっていく。凝っている場所は、頑張っている場所です。
ツボで肩の痛みという煙を和らげることはできても、火の元である姿勢や肩甲骨の動きが変わらなければ、肩はまた同じ負担を背負い続けます。肩甲骨の動きについては、肩の痛みと肩甲骨の記事で詳しく書いています。
当院での見かた
当院では、まず今がどの時期かを伺い、肩甲骨の動き、胸の丸まり方、首の位置を確かめます。そのうえで、痛みの出ている表面ではなく、肩甲骨のきわや肩の付け根の奥など、最初に固まったと考えられる深い場所を探していきます。
鍼は、指で押すのとは違い、髪の毛ほどの細さで、揉んでも届きにくい深い層にはたらきかけることができます。痛みの強い時期には、痛む場所には触れずに、離れたツボや首まわりから進めます。固まる時期には、お灸や温熱で温めながら、肩甲骨の裏側にもはたらきかけていきます。
変化は、夜に出ます。寝返りで目が覚める回数が減っている。痛くない向きを探さなくても、眠れる夜が少しずつ増えていく。なお、効果や感じ方には個人差があります。
なお、肩の痛みには、五十肩以外の原因もあります。まだ受診していない方は、まず整形外科で確かめてください。転んだりぶつけたりした後から痛み出した場合、腕がまったく上がらない場合、肩が赤く腫れて熱を持っている場合、発熱を伴う場合、手や指のしびれや力の入りにくさがある場合は、ツボを試す前に、すぐ医療機関を受診してください。
痛む肩を押したくなるのは、自然なことです。でも、肩はもう十分に頑張っています。今日は、肩から少し離れた場所から、手当てを始めてみませんか。
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